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吉村順三の軽井沢の山荘B(脇田邸・軽井沢のアトリエ山荘)の見学レビュー
2010.06.12 Saturday
今回は日本の建築界の巨匠吉村順三の作品をご紹介します。
軽井沢の山荘B(脇田邸)は軽井沢にある脇田美術館の初代館長・脇田 和の自邸兼アトリエです。
たまたま美術館主催のワークショップで特別に内部見学をさせていただいた時のものです。
吉村順三氏の作品では良くこのようなコンクリートスラブの上に木造の家屋を載せた同様のスタイルを見ることが出来ますが、コレは軽井沢の気候を配慮し、湿気から建物を守り、かつ風景を切取り、雨の日もバーベーキューなどが出来るスペースを確保する為のものだったと聞いています。
ちょうど見学した日は小雨が降っていて見学者はスラブの下で雨宿りしながら見学を行ったわけですが、屋根からこぼれる雫もデザインしたという吉村順三氏の世界が見れたことは幸運だっかかもしれません。
裏手に廻り外観を眺めると、結構複雑な形をしているんですね。
コンクリートスラブの上の住居は平面的な広がりをもった間取りですが、アトリエとして均一な光を要する部屋と、寝室やリビングの空間構成が全く異なる為、それが形に表れている気がします。
内部の見学はアトリエとリビングのみ。
オーナーの脇田さんが住んでいる家を見学させていただいているのですから当然なのですが、一部だけでも見学させていただけた事に本当に感謝です。
やはり特徴的なのがこの大開口。
縦にドーンと抜けた開口ではなく、細長い低めの窓で、風景を切取る絶妙なフレーミングです。
現在は敷地の一部に美術館が建っていますが、当時は軽井沢の森が広がっていてもっともっと素敵な景色が見れていたんでしょうね。
吉村順三氏は意匠的なデザインのみならず温熱環境についてもいろいろな実験を試みていて、この建物では韓国のオンドル式の床暖房を応用したシステムが組まれています。
1階のコンクリート部分にあるボイラーで空気を暖め、床下の隙間を利用して空気を流し、床暖房を行っています。
庭を囲むサッシの鴨居の溝を利用したスリットから吸い込まれた冷めたい空気が床下で温められ、作り付けのソファーの背後のスリットから吹き出る仕組みとなっているのです。
窓、網戸、雨戸。
複数の建具が納められる窓部分。
レールの数がとても多いです。
全ての戸が引き込む事が出来るように設計されていて内と外との距離を近づけてくれる大切な部分です。
窓台もちょうど腰掛けられる高さで設計されており、ついつい窓辺に座り本など読んでみたくなります。
内部の雰囲気は写真ではなかなかお伝えし切れませんが、ちょっと暗めの落ち着いた雰囲気です。
私はこういう空間が大好き。
大きな窓からサンサンと明るいリビングより、天井の高さや明るさの質が異なる場が散りばめられた宝石箱のような空間が好きなのです。
猫のようにその時間、季節、気候によって快適な居場所が変化し、使い方が変化する空間。
それはリビングルームという言葉でひとくくりにするのは勿体無い多様な用途の存在する場所です。
庭を囲むように弧を描くこの家は、このような五角形の家具でデッドスペースを有効的に活用できるようになっています。
この隅のダイニングエリアはこんもり感があってとても落ち着く場所。
天井高さを抑えた空間、直角のない壁。
通常の住宅にはあまりない構成ですが、身体感覚にマッチした大きさの空間がとても落ち着くのだと思います。
建築とインテリアが一体でデザインされているのでこういった快適な場所が造れるのです。
吉村順三氏といえば暖炉。
シャープなデザインでありながら、空気の流れをキチンと考えた造り。
冬の軽井沢を愉しむ素敵な暖炉です。
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私もこんな家で暮らしてみたいなぁ〜と思える素敵な家。
それは写真や図面だけでは想像できなかった貴重な体験でした。
以前勤めていた設計事務所では、吉村順三氏の設計した事務所で働く機会があり、吉村先生の空間を体感する事が出来たのですが、住宅を見学させていただくのは初めてでした。
やはり、住宅を多く手掛けてきた建築家だけあってほんと良く考えられています。
このような素敵な住宅を私も設計したいですね。
---諸データ---
■作品名 軽井沢の山荘B(脇田山荘)
■所在地 長野県北佐久郡軽井沢町
■主要用途 別荘 アトリエ
■敷地面積 1,914.9m2
■建築面積 167.7m2
■延床面積 219.2m2
■構造 1階:鉄筋コンクリート造 2階:木造
■規模 地上2階
■竣工 1970年
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軽井沢の山荘B(脇田山荘)の図面はこの本に収録されています。
平面図・断面図・矩形図・オンドル式床暖房の詳細図(サッシ詳細図)が掲載されています。